【AWAKen】旭化成のDX、今、実際どうなの?~エンジニアと現場の、リアルなDX事情~<AWAKen第4回イベントレポート>
6月23日(金)、CoCo-CAFE田町にて
AWS(Amazon Web Services)社内実践コミュニティ“AWAKen”の第4回目のイベントが開催されました。
旭化成のDXを牽引する「デジタル共創本部」と、それをサポートする「AWS」から4名の方にご登壇いただいたパネルディスカッション、創薬研究や開発といった様々な現場におけるAWS活用の実態と、一歩踏み出すための挑戦。
今回も、AWSを通して旭化成のDXの“今”を広く、深く掘り下げる濃い3時間となりました。
※AWAKen、AWSについてはこちら↓
※前回(第3回)のAWAKenの様子はこちら
■パネルディスカッション
2021年の設立以来、旭化成のDXを牽引してきた「旭化成デジタル共創本部」から
●田 吉尭さん
(2020年キャリア採用 デジタル共創本部 スマートファクトリー推進センター フィールドソリューション技術部所属。前職ではシステムエンジニアやIoT製品開発に従事。)
●奈木野 豪秀さん
(デジタル共創本部 DX経営推進センター 共創戦略推進部 部長。旭化成グループのDX推進を担当。)
●高須 薫さん
(デジタル共創本部 DX経営推進センター 共創戦略推進部 アジャイル開発グループ所属。事業部出身、現場では樹脂開発に長く従事。2020年よりデジタル共創本部にて経営ダッシュボードプロジェクトなどに携わる。)
の3名が。
そして、旭化成のDXを力強くサポートしてくださっているAWS様から
●河村 聖悟さん
(アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 技術統括本部 エンタープライズ技術本部 部長。様々な企業でIT部長・取締役・グループCTOを経験。Git/DevOpsについての著書も)
にご参加いただき、4つのテーマについてパネルディスカッションを行いました。
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それぞれ違った立場の4人によるパネルディスカッションは、風通しが “ 良すぎる ” 旭化成ならではの内容となり、様々な気づきを視聴者だけでなくパネリスト自身にも与えるものとなったようです。
<テーマ1> あなたにとってのDXとは何ですか?
事前に社内で行ったアンケートを見てみると、人によって「DX」の定義や認識はそれぞれ違っているようです。パネラーの4名もそれぞれ違った回答となりましたが、
「自分の仕事の仕方を変えてくれたもの」
「ビジネスのもともとの構造(あり方)をかえていくもの」
「何かを変えていく土台にある物」
などの意見から「変化」というキーワードが浮かび上がってきます。
そして、「DXを推進するにあたり、個人個人での定義は統一する必要はないが、企業としてのビジョンを共有することは必要である」という意見は4名全員が一致し、話題は『ビジョンを浸透させるには」に波及します。
「ビジョンの浸透に正攻法は無い」というお話をAWSの河村さんからいただきながら、デジタル共創本部の制作したDXビジョンムービーやAWAKen(本イベント)などイベント開催という様々なコンテンツを振り返り
「ビジョンは行動指針となるため、いかにして“ 普段の暮らしの中 ”に組み込んでいけるかが大事なのではないか?」と、様々な方向から少しずつ、地道にアプローチをしていくことの重要性を再確認しました。
一方で時代や企業の成長フェーズに合わせてビジョンを変えていくことも必要なのかもしれない、という意見も上がりました。
<テーマ2> 旭化成のDXを加速させるには?
「生成系AIに経営資源を集中させる」
「①ディレクション②権限移譲」
「人・文化→外を知る」
「全社で目標の共有、トップダウンで現場を動かす」
と、それぞれ全く違った回答が出るも、話題は「予算確保」というセンシティブな方向に。予算の配分や、判断部署、申請タイミングなどリアルなディスカッションが繰り広げられました。
すぐに効果の出ないIT投資に対して、現場に予算面で理解を得る事に日々苦労しているIT部門の様子がうかがえます。
そんな中でも「スモールスタートで、短期間で小さい成果を見せることで、現場の理解を深めてもらいながら、徐々にスケールしていく」という田さんのアジャイルな仕事の進め方にパネリスト一同共感。
その他、生成系AIの可能性やトップダウンで物事を進める難しさについても触れました。
<テーマ3> あなたの部署にデジタル人材は足りていますか?
3名のパネリストが「足りていない」と回答する中、エンジニアの田さんは「分からない」と回答。そこから「そもそもデジタル人材とは??」というデジタル人材の定義について盛り上がり、話は「組織」にまで広がります。
“ やらなければいけないこと ” だけでなく、“ やりたいこと ” を考えると、きっと日本中でデジタル人材は足りていないはず。しかし、具体的にデジタル人材とはどのような人のことを言うのでしょうか。
「旭化成に入って、一人の人がマネジメントも、インフラ構築も、ソフトウェア開発も、と何でもやることに驚いた。ITは専門性を持たせてもっと分担したほうが良いのでは?そのせいもあって人材の見える化も出来ていない気がする。」と話すのは2020年入社の田さん。
AWSの河村さんも「企業は何でもできる人を優遇する傾向にあるが、より専門的な人をどう配置して、どう評価していくのか?はとても大事なテーマ」だと言います。加えて河村さんは「専門人材をきちんと使いこなせるのか?」という問題にも言及し、「ITの専門家と専門家を繋ぐ役割を担う人こそがデジタル人材なのではないか」と持論を展開。
高須さんは、田さんの人材の見える化というキーワードを受けて、「部署ごとに同じような役割の人が存在する現在の組織割について、職種ロールごと、スキルごとにカットする方法もあるのでは?」と組織の在り方に疑問を投げかけます。
奈木野さんも「確かにあと何人ほしいのか聞かれると難しい、自分たちのことが見えていないともいえる。組織の仕組みに正解は無いので、いろんなやり方があるよね」と答えつつ、「変化が速く、必要なデジタルスキルもどんどん変わる今の世の中において、その変化に追従していける人材がデジタル人材なのではないか」とも述べました。
事前に行った社内アンケートの回答でも、圧倒的に「デジタル人材が足りていない」との回答が多く、デジタル人材の必要性と、その在り方についても考えるキッカケとなりました。
<テーマ4> 旭化成の全社員をデジタル人材にするには?
DXオープンバッジという独自のeラーニング教材を作り、全社員のデジタル人材化を進める旭化成ですが、「そもそも全社員をデジタル人材にする必要はあるのだろうか?もっと将来を担う若い人に投資して育てた方が良いのでは?」と語る田さんに、「桶は桶屋。自分も専門分野は専門家に任せたほうが良いと思う。でも、その専門チームと対等に話せたり、投資の規模感はしっかりわかるレベルは皆に必要かも。そのためには一回主担当になってみると良いのでは」と、高須さんは自身の経験を振り返りながら語ります。
今まで多くの大手企業のDXに携わってきたAWSの河村さんは「他の誰かがやってくれることは無いので、自分でもっとこうだったら~と思う事があるならどんなに小さくても何かアクションを起こすことが一番大事。社員の一人一人にアクションを起こす権利はあるはず、そして、それがデジタルを次に進めるためのキーです!」と語りました。
その後も、「AWSのように全社員がデジタル人材になると会社ってどんな風になるの?」「旭化成はもっとITに自信持って良いと思う。」等々、文化の醸成やマインドセットの話などで盛り上がりました。
4つのテーマで行われた今回のディスカッション。
パネラーの4名が一切、忖度なしで議論する姿が非常に印象的でした。
ディスカッションの最後にAWSの河村さんがおっしゃっていた「会社を変えられるのは、社員しかいない」という言葉がとても胸に響いたのは、登壇するそれぞれがしっかりと自分にとってのDXを、自分の言葉で話していたからでしょう。
立場や職種によってDXへの向き合い方や、スタイルは様々ですが根底にある「旭化成をDXでもっと良くしていきたい、出来るはず」という強い想いは同じであると感じることができました。
旭化成のDXは今後、もっと加速していく!そう、思わずにはいられない非常に熱いディスカッションとなりました。
■今日から始める!AWSにおける生成系AI入門
AWSの森下さんが、生成系AIをAWSで使う方法や、ビジネス活用のユースケースについて解説をしてくださいました。
今話題の生成系AIですが、その実態は大規模な “ 基盤モデル ”。世の中にはテキストや画像などに関する様々な基盤モデルが数多く公開されています。(スマートスピーカーで使われている Amazon Alexa のベースの一つである、AlexaTM 20B も基盤モデルの一つです。)AWSでは様々な基盤モデルに対応するサービスをご用意。
森下さんから、アプローチ別にカテゴライズしながら、AWSの様々なサービスを紹介頂きました。
①モデルプロバイダー:自ら基盤モデルをスクラッチ開発する方々
②モデルチューナー:公開済みの基盤モデルを自社用に活用・チューニングする方々
③モデルコンシューマー:生成系AIをAPI経由で利用する方々
AWSの「Amazon Bedrock」は、複数の基盤モデルから、用途に応じて最適なものを選択してAPI経由で簡単に利用・カスタマイズできるという新サービスですが、他にも誰でも基盤モデルを簡単に試したり、デプロイやファインチューニングしたりできる「Amazon SageMaker JumpStart」、Pythonなど様々な言語に対応しソースコードを自動で生成できるAIサービス「Amazon CodeWhisperer」が。アプローチ①のモデルプロバイダー用には「Amazon EC2 Trn1n/Amazon EC2 Inf2」という生成系AIのトレーニング/推論に最適化された新しい Amazon EC2 インスタンスも。
また、基盤モデルを実際にビジネスで活用するアプリケーションの例として、生成系AIの弱点をAWSのサービスでカバーする一例 (Amazon Kendra+大規模言語モデル)もデモを交えてご紹介いただきました。
ぐっと身近になった生成系AI。その活用法と可能性はまだまだ未知数ですがAWSと組み合わせることで、更に世界が広がることは間違いありません。
■旭化成内AWS活用事例発表
①研究現場にAWSをしれっと忍ばせる話~システム。ストレージ、計算資源をクラウドで~
旭化成ファーマの医薬研究センター河内さんより、創薬研究の現場におけるAWSの活用導入事例・利用状況をご紹介いただきました。
創薬研究では1つのプロジェクトについて下記4つのステップからなるサイクルを何度も回します。
Design:(仮説)目的機能を有する化合物の構造を設計(1プロジェクト辺り数千種類の化合物を新規に合成)
Make:合成実験を行う
Test:評価試験を行う
Analysis:目的機能を有するか解析し、次の【仮説】構築を行う
仮説を立てたり、結果解析をサポートするだけでなく、数万種類もある試薬の中から該当する試薬をピックアップする作業や在庫管理、膨大な実験データの保存など、各プロセスの中でモノとデータをスムーズに流し効率的に業務を進めるため、データベースをはじめとする様々なシステムを連携させていることがわかりました。
今後はAWSをシステムやストレージとしてだけでなく、特に計算資源としての活用を進めていきたいと河内さんは言います。
また、インフラ担当である河内さんは、オンプレをクラウド化するにあたってのスペックや通信速度、バックアップ等々についても自身の経験からアドバイス。クラウド化することでサーバトラブル対応へのストレスがかなり軽減されたと笑います。
「旭化成の基盤で作ったモデルを他の事業部でも使えるようになったり、話題に上がったモデルをすぐに試せる状態になると良いな」と今後への期待も膨らみます。
②AWS初心者の私がたった2ヶ月で機械学習ワークフローを構築できたワケ
開発現場において、とても重要な「特許文書の読み込み」。
日々発表される世界中の膨大な量の特許文書をある程度振るいにかけて、チェックする文書の量を絞ってはいるものの、それでも多い時で週に50件…。
ボリュームのある文書の詳細まで読み込む必要があったり、日本語でない場合もあるため、時間的にも精神的にも負荷がかかる業務となっています。
「この特許文書読み込みという作業をもっと簡単に早く、安価にできないか?もっと効率的にすることで、より深い権利調査に時間を割けないか?」そう考えた、ラテックス技術開発部の大浦さんは、AWSのサポートを活用し、自身の業務においてギリギリ捻出できそうな“2か月間”という期間内でシステム構築、形にしよう!と思い立ちます。
まずはいつも通り、社内特許検索システムから配信される文献をCSV形式でDL→「S3(ストレージ)にデータを入れ」→「AWS Lambdaが検知」これがトリガーとなり→「Amazon SageMakerが起動し推論を行う」→「S3に結果を保存」→CSVでDLして確認。(システムから排出されたCSVデータにあるスコアで関連度を見える化。自研究分野と、より関連度の高い文書だけをチェックすればOK)というワークフローを構築。
「アーキテクチャだけ見るとシンプルに見えますし、システム移植するだけと思うかもしれませんが、これが難しかったです…。実はこの発表の2日前の夕方に何とかシステムがちゃんと動いて…」と、こぼす大浦さんですが、
「費用対効果の面でも、コスト面(一時スクリーニングの外部委託費)や工数の面で効果は大きいでしょう。今後は、他部署への横展開だけでなく、生成系AIを使ってのアルゴリズムの高度化、評価レポートの自動生成、多言語対応など・・・」と改良の方向性を語る姿はデジタル活用人材そのものでした。
「最初はまず用語理解が難しかった。何を言っているのか全然分からなくて・・・。使うサービスごとに同じPythonのはずなのに作法があったり、意外とサービス間の連携が難しかったり」と、やってみたから分かるリアルな感想も。
また、2ヶ月間という短い期間で、大浦さんが一からココまで挫けずにやり遂げられた、その裏には、技術面のサポートだけでなく、メンタル面でもサポートをしてくれたというAWSとAWAKenメンバーの存在があったと語ります。
普段の業務で不便さや非効率を感じたら、それはもしかしたらデジタルで解決できるチャンスかもしれない、そして「事業部など現場からもっともっとニーズを出して行くことも大切では」と呼びかける大浦さんの笑顔からは、やり切った満足感と自信があふれていました。
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今回も盛りだくさんの内容で、盛況のうちに幕を閉じたAWAKenイベント。
イベント後、DX初心者であるという男性から
「DXでどんなことが解決出来るのか全然わからなかったけれど、何かを変えたいと思っている人は今回のようなイベントに参加することで気づきを得ることが出来ると思う。そういう小さいことから始めようと思えたのでイベントに参加して良かった」と嬉しい感想も。
AWAKenという活動を通して、旭化成のDXの輪は少しずつ、確実に広がってきていることを感じることが出来ました。
次回のAWAKenもお楽しみに!!
関連リンク
・旭化成株式会社デジタルトランスフォーメーションサイト
・旭化成株式会社
・旭化成 DXエンジニア キャリア採用 特設サイト
・アマゾン ウェブ サービス(AWS クラウド)- ホーム (amazon.com)