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スマートファクトリーのデータ基盤をAWSプロトタイプチームと一緒に開発した話

はじめに


こんにちは!デジタル共創本部でスマートファクトリーを推進している田です。今回は、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社のプロトタイプチームと一緒に、スマートファクトリーのデータ基盤を開発した話についてインタビューを受ける機会がありましたので、ご紹介します。

スマートファクトリーを推進する上での悩み


AWS 鈴木: 「AWSプロトタイプチームの鈴木です、本日はよろしくお願いします!旭化成さんはスマートファクトリーの推進にあたりデータ基盤を開発されているお話を伺っていますが、その中で田さんがこれまで取り組まれてきた内容についてお伺いできますか?」

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 プロトタイプエンジニアリング本部 鈴木 毅洋

旭化成 田: 「旭化成の田です。こちらこそよろしくお願いします。私は2020年に中途入社してからこれまで、いくつかの工場のスマート化に携わってきました。プロジェクトの中で実際に工場の現場の方にヒアリングすると、複数のデータを組み合わせた用途に対する要望が多いことに気づきました。たとえばPLCのセンサーデータや生産管理の情報、検査機の情報を参照し定期的にレポートを作成したり、データ分析を行なったりといった使い方をしたい、という声が多かったです。データの在処が散財しているためアクセスに時間もかかっている状況でしたので、このようなデータを一元管理し簡単にアクセスできる仕組みを作れば、スマート化を推進できると考えました。実は既にAWS上に構築したシステムをいくつかの工場で運用していて、『品質データの解析時間が大幅に短縮できた』等、複数の部門でKPIが改善したという声をいただいています。」

デジタル共創本部 田 吉尭

AWS 鈴木: 「既に具体的な成果も上げられているという点、素晴らしいですね!一方で実際に運用してみると見えてくる課題もあると思うのですが、苦労されている点などありましたら、教えていただけますか?」
 
旭化成 田: 「旭化成は非常に多岐にわたる事業や工場を抱えています。複数の工場へこの仕組みを横展開していきたいのですが、そのためには標準化された仕組みを作り、開発コストや運用コストを抑えることが必須です。ですが現状では、センサーデータの収集の方法ひとつ取っても、SCADAからCSV出力してFTPで転送したいケースもあればHTTPで転送したいケースなど複数の方法があり標準化されていません。また工場からのデータの活用ニーズは本当にさまざまで、モニタリングなど高いリアルタイム性が求められる要件もあれば、オフラインでExcelやPowerBIなどで分析したい要件もあります。これらの多様な要件を、工場の限られた予算で達成していかなければなりません。現在はRDS上にPLCのデータ含め全てのデータを集約しているのですが、テーブルの最適化に半日以上かかるなど、アーキテクチャにも問題があると考えています。」

AWS 鈴木: 「標準化は重要ですが、なかなか難しい課題ですよね。そんな悩みを抱えていらっしゃる中で、プロトタイピングプログラム (※) を提案された時はどんな印象を持たれましたか?」

※プロトタイピングプログラムについて (補足): AWS を利用するお客様のプロジェクトの加速を支援するプログラムです。AWS のプロトタイピングエンジニアが、お客様のプロジェクトが有する課題に合わせ、課題を解決するためのプロトタイプを開発します。 

旭化成 田: 「アーキテクチャの改善案について既に自分の中にいくつかイメージはあったのですが、日々プロジェクトを推進していかなければならない多忙の中でそれらの案について技術検証の時間を十分に取ることが難しいという状況でしたので、私としては試してみたいという気持ちになりました。」

データ基盤プロトタイプのアーキテクチャ


AWS 鈴木: 「今回は改めて、プロトタイピングプログラムをご利用くださり、ありがとうございました!事前にデータ活用のユースケースを詳細にヒアリングさせていただいた上でアーキテクチャを提案させていただきましたが、田さんからみて今回のアーキテクチャの要点はどこにあったとお考えですか?」

旭化成 田: 「いくつかありますが、一つはリアルタイム要件を除外し、バッチ処理に振り切った点であると考えています。現場からはセンサーのデータをリアルタイムに監視したいという要望があったためAWSへ相談したところ、いくつかのアーキテクチャ案を提案いただきました。ですが、予算の問題などもあったため、利用者が少ないユースケースであったこともあり、現場のオンプレで監視することにしました。選定するサービスも我々の予算事情などを考慮した上で柔軟にご提案いただき、相談して良かったと思います。」

データ基盤プロトタイプのアーキテクチャ PLCセンサーデータ・検査機データ・生産管理データを収集し、PowerBIで可視化するシステム

AWS 鈴木: 「ありがとうございます。PLCデータの収集に関しても、当初はFluentdを利用される予定でしたよね。同じくプロトタイプチームの渡邉からGreengrassのご提案もさせていただきましたが、いかがでしたか?」
 
旭化成 田: 「そうですね。Greengrassのことは正直あまり存じ上げなかったのですが、提案されてみて検証してみてもいいかなと思いました。特にOPC-UAのデータ収集の仕組みがあることやネットワーク障害時の再送信、デプロイが現地に行かなくても可能なこと、そして検査機のWebアプリもまとめて管理できるところが良いと感じました。ですがやはり不慣れなサービスを利用することに不安もあったので、Fluentdを利用した場合についてもカバーしていただいた点は良かったです。」

AWS 鈴木: 「いえいえ、ご満足いただけて安堵しております!検査機のアプリとは、どのようなものでしょうか?」
 
旭化成 田: 「検査機の出力するデータを、生産管理データと紐づけて分析するためリネームしているのですが、OSの機能でファイル名を変更する場合タイプミスなどが発生してしまいます。これを防止するため名前のルールを強制するアプリです。」

AWS 鈴木: 「当初は現場のPCが古く最新のJavaScriptが実行できないため、Webアプリではなく、Go言語製のアプリを現場のPC上で実行する予定と仰っていましたね。」

旭化成 田: 「はい。ですが利用する技術がむやみに広がってしまう悩みもありました。私のチームでは新卒の社員も多く実務にまだ慣れていないメンバーもいるため、技術スタックを統一する取り組みをしています。特に最近ではReactでフロントエンドを開発する機会も多いため、できればTypeScriptに寄せたいと考えていましたので、GreengrassからWebアプリをタブレットに配信するアイデアを提案いただき良かったです。そんな背景もあり、プロトタイプではNestJSでの実装をお願いしました。IoTからWebまで広くカバーしていただき、感謝しています。」

プロトタイプの他工場への展開


AWS 鈴木: 「今回提供させていただいたプロトタイプですが、他工場への展開という観点からするといかがでしょうか?」

旭化成 田: 「データ収集に関してはOPC-UAで標準化されているほか、開発に関してもCDKでIaC化されているので、開発工数を大幅に削減できると考えています。また運用コストについても、各種サービスのマネージドな特性から負荷を下げられる見込みですし、サービス利用料についても、プロトタイプ時点の試算では、現在運用中の基盤に比べて1~2割ほど削減できると思います。実運用はこれからなので、どれくらいコストが削減できるか早く見てみたいです。」

AWS 鈴木: 「収集方法が標準化されたほか、開発コスト・運用コスト両面で下げられるため展開しやすくなったということですね。」

旭化成 田: 「そうですね。あとはAWSのサービスを扱った経験や、アプリケーション開発の経験が少ないメンバーでも、展開できるような仕組みづくりが必要と考えています。」

技術的なノウハウの引き継ぎ

AWS 鈴木: 「なるほどですね。今回のプロトタイプでは、提供後に稲垣さんとペアプログラミングを実施しましたが、いかがでしたでしょうか?」

旭化成 田: 「先ほども申し上げましたが私のチームは新卒メンバーも多く、日々技術面も含めて教育しています。工場への期待にすばやく応えるためにも、データ活用は内製するメリットも大きいと感じていますが、一方で一定のスキルが求められます。特に検査機のデータは、検査機によってフォーマットがバラバラなため前処理の加工はどうしても必要になってきますので、その部分のコードは私でなくてもメンテナンス出来ると良いのですが、それを伝えたところペアプログラミングを提案していただきました。正直そこまでやってくれるとは思わなかったので、驚きました。」

AWS 鈴木: 「確かに、検査機のデータは拡張子がcsvでも、実態のフォーマットはcsvからかけ離れているケースも多いですよね。稲垣さんはペアプログラミングしてみて、どう感じられましたか?」
 
旭化成 稲垣: 「ペアプログラミングを通して、鈴木さんのスキルレベルの高さを感じるとともに、普段どのような手順・方法で実装しているかというのを学ぶことが出来ました。また、分からない部分についても都度質問させていただいたので、納得しながら実装が出来ました。CDKに触れるのは今回が初めてだったのですが、自分でDMSやAPI Gateway等の追加の実装を行った際にも、その時の経験のおかげでスムーズに実装することが出来ました。」

デジタル共創本部 稲垣 匠馬

今後の展望


AWS 鈴木: 「色々とお話を伺わせていただき、ありがとうございます。今後AWSに期待することはありますか?」 

旭化成 田: 「製造業の中にはIT技術に精通していない方もいらっしゃるかもしれません。AWSさんが公開しているソリューション(※)は専門的な知識が必要な場合があるため、より使いやすい形態のテンプレートなどがあれば、多くの方々にとって有益だと考えます。またエッジ側のサービスはLambdaやS3などクラウド側のサービスに比べ、インターネット上の情報が少ない印象もありますので、もっと拡充していかれると良いと思います。」

ソリューション (補足): AWSソリューションライブラリaws-samplesのこと

AWS 鈴木: 「貴重なご意見、ありがとうございます!では最後に何か一言あれば、お願いします。」

旭化成 田: 「短い期間で充実した実装とドキュメントが含まれており、プロトタイプの完成度は私の想定を超えていました。改めてプロトタイプチームのスキルの高さに関心しました。今回のプロトタイピングプログラムの活用によって、工場データ基盤の標準化に向けて大きく前進したと考えています。他工場への展開も積極的に考えていきたいです。」

AWS 鈴木: 「本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!引き続き御社のDX推進にあたり、弊社も精一杯ご支援させていただきます。今後ともよろしくお願いいたします。」

関連リンク
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